2026年9月28日、パズルゲーム「そろえて☆マーメイドシアター」(通称そろマメ)を作ったASOGUEの畑圭輔さんに、49分話を聞きました。東京ゲームショウ2026の出展を終え、アーリーアクセス版を出した4日後です。

AIでゲームを作るなら、ひとりで全部やる形がまず浮かびます。そろマメは違いました。キャリア20年を超える3人が役割を分け、そこにAIを入れて4ヶ月で形にしています。

先日話を聞いたイケハヤさんの「月蝕綺譚」は、ほぼひとりでAIを回した例でした。今回はその反対側、経験のあるチームがAIを入れると何が変わるのかを聞いています。

そろえて☆マーメイドシアターとは、5×5のマスにフィルムを置き、同じ色・同じ数字・連番・言葉を縦横斜めにそろえて得点を競う、スマホ向けのパズルゲームです。iOSとAndroidで基本無料、広告で収益を得るモデルです。容量は約20MBで、追加ダウンロードはありません(今後の運営でわずかにデータ更新追加は行われます)。配信はASOGUE、開発と運営はパートナー会社の紫電一閃が担当しています。

そろえて☆マーメイドシアターの遊び方。左からパネルをタップしてフィルムを並べる画面、色や数字を並べてそろえる画面、縦・横・斜めにそろえて消してスコアが上がる画面
「そろえて☆マーメイドシアター」の遊び方。①パネルをタップしてフィルムを並べる ②色や数字を並べてそろえる ③縦・横・斜めにそろえて消すとスコアアップ © ASOGUE LLC & Shiden Issen Inc.

対談の発言は、意味を変えない範囲で読みやすく整えています。数字と固有名詞は本人の発言のままです。

「3人×AI」の中身。AIはどこまでやったのか?

Yuto

「キャリア20年超のプロ3人が役割を分けて、AIも使って3人4ヶ月(当時=最終的にアーリーアクセス版まで4ヶ月)」と書かれていました。3人の役割と、それぞれの仕事のうちAIがやったのが何割くらいかを教えてください。

畑圭輔

大きく分けて3つです。弊社ASOGUE側は、プロデューサーとして私。開発パートナーの紫電一閃側は、デザイナー1名、プログラマー1名。ゲームの世界観の設定は、私以外が担当してくれています。

AIの使用率でいくと、エンジニアは、アイディア以外は、ほぼ100%だと思います。AI社員を何人か入れて、人間が指示を出し、コーディングは基本的にAI社員がやる形です。具体的なAIサービスは、Gemini、Codex、Claude、Grok、Copilotを満遍なく利用しています。

デザインは、ラフや汎用的なアセットをAIで作りつつ、最後のブラッシュアップを人の手で行っています。

畑圭輔

ロゴやキービジュアルのように重要なアセットは人の作業比率が高く、逆に、お客さんの目にそこまで止まらないところは、AIによるアセット生成をベースに制作しています。手を抜いているわけではなく、一定の品質を担保しながら制作プロセスを短くするためのバランスをAIサービスでうまく補っています。あとはAI臭さが出ないように、人がコントロールして仕上げる。だからデザインは100%AIではないんです。

Yuto

プロデュースの仕事はどうですか?

畑圭輔

プロデュースそのものをAIでやるのは基本できません。ただ、プロジェクトマネジメントは私がやっているので、そこはNotionのNotion AIで管理しています。会議を音声で文字起こしして、Notionのスキルでドキュメントにして、次のToDoを出し、次の会議のアジェンダまで作る。議事録係がいた仕事やタスク管理、運用など横断的にチェックして、整合性を取る作業などをある程度自動化したりして、プロジェクト管理の面倒なところをAIに任せました。

とはいえ、議事録の完全自動化は難しいと思っています。誰が何を話したのか、次に誰が何をやるのか。ここはAIが取りこぼすので、記憶がフレッシュなうちに私がレビューして、手で直してから配っています。

プロモーションは、GrokのBotとGrok Buildを組み合わせています。前日までのインプレッションを見ながら、何を出すかを提案させる。私が文面を少し直して「投稿しておいて」と返す。ここはだいぶ自動化できてきました。

Yuto

AIがなかったら、同じものに何人・何ヶ月かかりましたか?スクエニ時代の感覚で。

畑圭輔

エンジニアは無難にいくなら、最低1人は要ると思います。デザインもプラス1人。プランニング、プロジェクトマネジメント、マーケティングで追加2〜3人くらい。人の手だけで作るなら、最低6人ぐらいのチームになるんじゃないでしょうか。

これらを3人で回している計算です。AIの比率は職種で大きく違い、コードはほぼ全部、デザイン制作、プランニングやマーケティング・プロモーション一部と職種ごとに任せる量を変えています。

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「かわいい」はAIに任せられなかった。人は何を決めたのか?

Yuto

逆に、AIに任せられなかった工程を教えてください。聞きたいのは「かわいい」の核を誰がどう作ったかです。女性や子ども、家族向けは、生成AIへの拒否感がいちばん強い層だと思うので。

畑圭輔

かわいいの世界観は、先ほどのエンジニア兼ディレクターが考えています。それをビジュアルに起こすのがデザイナー。売り物として訴求力があるかどうかの判断を、私がプロデュースの目線で入れる。基本はそこまで全部、人です。

人が土台を考えた後に、世界観を補うところをAIと壁打ちすることはあります。でも、一般的な「かわいい」と最近のトレンドを押さえるのは、AIにはなかなか難しい。そこは人の手がいちばん大きかったし、今もそうです。

Yuto

キャリアで培った感覚の部分は人が持って、それ以外を最大限AIで効率化する、という考え方ですか?

畑圭輔

そうですね。描くものは人が決める。パターン出しを人の手でバッと描かせるわけにはいかないので、そこはAIです。アートのコンセプトを作るときに「こういう考え方で、こういうデザインの指針がある」と伝えると、「こういうのはどうでしょう」と出てくる。これはAIの方が圧倒的に速いし、会議中にもできるんです。

普通は、会議が終わってから絵を描いて、また会議をしますよね。そこがグッと縮まっています。

畑圭輔

人が握ったのは、何を「かわいい」とするかの判断と、ターゲットに刺さるかどうかの判断です。AIは、決まった方向の中で案出しの役割ですね。

原案は2人が作った「Beast Gang Poker」。何を足したのか?

Yuto

スペースで「元になるゲームデザインに出会ってほれ込んだ」と話していました。原案はどなたのもので、特許は誰が出しているんですか?

畑圭輔

Beast Gang Poker(ビーストギャング・ポーカー)というゲームがすでにモバイルアプリで出ています。これを作ったのが、チームのエンジニアとデザイナーの2人です。基本的なルールはマーメイドシアターとほぼ同じ。縦横斜めで判定する仕組みに新しさがあったものの、デザインは日本向けではなかった。日本人に受ける世界観と仕組みにアレンジすればいけると思っていました。

それとゲームのアレンジも少し入れた方がいいだろうと、Beast Gang Pokerの仕組みをさらにアレンジしています。原案のシステムは特許を申請しています。

Yuto

5×5の形に固まるまで、ルールは何回捨てましたか?

畑圭輔

ベースはBeast Gang Pokerのルールそのものなので、ルールとしてはすでにかなり確立されていました。遊んでいる方の評価も高い。ただ、遊び方が一辺倒になりそうだったので、最近流行りのローグライクの要素っぽいものが入ってます。

通常は3択から選ぶことが多いですが、そろマメでは、盤面の下に「ポップカプセル」というガチャを置いて、アイテムを出す。そのアイテムで盤面の状況が変わる。それから、山札を使い切って終わり、ではなく、うまく役をそろえたら一部の札が戻る仕組みも入れました。やり込む人ほど面白くなるように。捨てたというより、吟味しながら必要最低限を足していった方が大きいですね。

Yuto

AIにプレイさせてバランスを調整しましたか?

畑圭輔

プログラムのデバッグはAIもやってますが、基本的なバランス調整・プレイフィールは人の手です。私とエンジニアの、これまでの経験で決めています。

評価の定まったルールを土台に、足し算で磨いた作りです。ゼロから遊びを発明する部分と、遊んだ感触を決める部分。どちらも、AIではなく経験のある人がやっています。

そろえて☆マーメイドシアターのキービジュアルと、ガチャ「ポップカプセル」の画面
左がキービジュアル、右が盤面の下に置いたガチャ「ポップカプセル」。ポセイドンやクラーケンなど、スコアアップにつながるアイテムが出る © ASOGUE LLC & Shiden Issen Inc.
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プロジェクト専用のエディターは何を作らせたのか?

Yuto

8月に「プロとアマの差は、プロジェクト専用のツールをAIに作らせているかどうか」と書かれていて、1.7万回読まれていました。そろマメのために作らせたツールを挙げてもらえますか?

畑圭輔

エンジニアが裏でたくさん作っていると思いますが、たとえばキャラクターのアニメーションを定義するためのアニメーションエディターがあります。

Yuto

何で作ったんですか?

畑圭輔

エンジニア側で、Codex、Gemini、Claude、Grokなどをいろいろ使い分けながら開発しています。

デザイナーが作ったスプライトやアセットを、そのエディターでデザイナー自身が組む。チュートリアルを作るためのエディターもあります。

それから、お知らせの管理ツール。うちのゲームのお知らせは結構変わっていて、ルビを振ったり、書式を入れたり、文字を動かしたりできるんです。それも管理ツール側に統合していて、その辺も全部AIで作ってもらっています。

Yuto

うちはAIツールのメディアなので、どこまでを自作して、どこから既存のツールを使っているかを知りたいんです。APIやMCPで何とつないでいるか、とか。

畑圭輔

詳しいツールまで全てお伝えすることは難しいですが、AIで繰り返しチューニングしたり、制作することはコストがかかるので反復作業などはツール化している感じです。これは通常のゲーム制作においても、分業を行う目的でも必須です。

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Geminiが合わなかったら

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ベテランのツール構成と、月にかかるお金は?

Yuto

畑さん自身が使っているAIツールと、月のコストを大体で教えてください。

畑圭輔

私はGrokとCodexがメインです。Codexは月3,000円のプランで、書類を作ったり、ちょっとしたことをやらせたりしています。リサーチや書類のまとめは全部SuperGrokのプランで、月8,000円くらい。年額で契約すると6万円なので、月5,000円くらいになっています。

それに付いてくるGrokのBotのクレジットで、今はAI社員を動かしています。あとなくてはならないものがNotionで、月3,800円くらい。Notionのカスタムエージェントは別途クレジットが要るんですが、あえて使っていません。課金が青天井だからです。

畑圭輔

代わりに、NotionのドキュメントをGrokからつないでいじらせたり、Grok BuildとMCP(AIと外部のツールをつなぐ仕組み)で接続させたりしています。それぞれのサービスのクレジットの余りを、いい塩梅でクレジットを使い切る運用ですね。これで私の分は他のサブスクなども含め、月2万円以下に抑えています。

Yuto

かなりコストを抑えていますね。

畑圭輔

相当抑えていると思います。時間制限のリセットもあるじゃないですか。ここ1〜2ヶ月、Codexはリセット祭りでしたよね。その期間のブーストの恩恵も受けたんじゃないかな。

本人の発言をもとに、ツールの構成を並べるとこうなります。

誰がツール用途月額の目安
畑さんChatGPTのCodex書類作成、ちょっとした作業約3,000円
畑さんSuperGrok(Grok Build、Bot含む)リサーチ、書類まとめ、投稿の分析と提案年6万円(月5,000円ほど)
畑さんNotion議事録、ToDo、アジェンダの自動化約3,800円
エンジニアCodexのPro(5倍)、Claude(足りない分をクレジット契約)、Gemini、Grok、Copilotコーディング、社内エディター約2万9,000円+Claudeの追加クレジット(編集部試算)
デザイナーChatGPT Pro、デザイン系サブスクなどデザイン寄りの作業約1万6,000円+デザイン系サブスク(編集部試算)
チーム合計月10万円ほど(本人の発言)

編集部注:畑さんの分と合計は本人の発言です。エンジニアとデザイナーの分は、各サービスの公式の月額から編集部が試算した目安です(ChatGPT Pro 100ドル、Claude Pro 20ドル、SuperGrok 30ドル、GitHub Copilot Pro 10ドル、Google AI Pro 2,900円。1ドル=160円で換算)。追加クレジットとデザイン系のサブスクは含んでいません。

畑圭輔

コスト意識が高いチームなので、制作がピーク時は高いプランを利用することもありますが、落ち着いてきたらプランを変更したりして、それでも業務として成立するように心がけています。1円も無駄にしないコスト意識は大事です。

Yuto

読者はベテランのツール構成を知りたいと思うんです。これは使った方がいい、というのはありますか?

畑圭輔

リサーチや文章がメインなら、NotionとGrok、場合によってはGeminiの3.8 Flashあたりですね。日本語の読みやすさで、3.8 Flashあたりから結構優秀だと思っています。

ただ、私はブラウザで使うより、iOSのショートカットでGemini APIを呼び出しています。テキストを選んでコピーして、iPhoneの背面をトリプルタップやmacOSでのキーボードショートカットでショートカットが起動する。書いた生の文章が、裏でGemini APIに渡ってXの投稿用に読みやすく整形される。そういう使い方です。

Yuto

自分のワークフローに組み込むショートカットを自作しているんですね。

畑圭輔

そうです。テキストをコピーしておけば、そこを起点に整形する。音声入力のSuperwhisperも使っています。音声入力モードをSuperにしておくと、選択したテキストに対して、「読みやすい日本語にして」と言えばきれいに直るし、「英語にして」と言えば英語にしてくれるので便利ですよ。

編集部注:取材の中で、アンバサダーを務めているPhotoroomをそろマメの制作に使ったかも聞きました。答えは「ほぼ使っていない。あれは趣味とアンバサダーとして個人で使っている」でした。

畑圭輔

日々AIサービスが高騰し始めているので、各サービスのクレジットを余らせない使い方を意識しています。従量課金で青天井になる機能は避け、別のサービスから操作させる。同じ作業を、固定額の範囲に収めています。

なぜ20MB・起動5秒なのか? Webベースを選んだ理由は?

Yuto

エンジンはWebベースと聞きました。Unityなどではなく、AIにコードを書かせる前提で選んだんですか?

畑圭輔

いや、とにかく軽く作りたかったんです。Unityなどのゲームエンジンも、ランタイムを削っていけば小さくはできます。でもブラウザで作るとデバッグもテストもしやすい。それと、画面の大きさに合わせて形が変わるデザインにしているので、最近のiPadOS 27でウィンドウをいろんなアスペクト比に変更できちゃう問題にもほぼ対応できています。

畑圭輔

結構色々なアスペクト比にしても、崩れません。ただ、横長にするとあるモードが発動するんです。横向きにすると、スタッフロールが流れます。あまり気づいている方はいないですけど。iPhone Duoにも対応しやすいと思っていて、半分に折ったときにデジタルサイネージっぽく見せたいなぁと思っています。これはTGSで大画面のタッチ式モニター(Adget Alternative)でのプレイをメンバーと見てて思い付きました。

畑圭輔

ゲーム本体がWebベースなので、ガワネイティブ(Webで作った中身をアプリの外側で包む方式)にしているため、アプリの中身を更新しながら運用できる。ソーシャルゲームなどでも採用している方式がとれる点も大きいです。パズルゲームで、この方式はなかなかないんじゃないでしょうか。

Yuto

20MBと起動5秒を守るうえで、AIが書いたコードで困ったことはありましたか?

畑圭輔

AIがというよりは、制約をあらかじめ設けているので、こういうアセットを足したい、こういうことをやりたいと言うと、エンジニアからストップがかかる。このアセットを入れると何キロバイト、何MB増えます、と。アセットの管理が徹底されています。AIに全て振っているわけではなく、人の業務の経験値を踏まえて設計をし、AIと共創しながら開発を行っています。

1バイトでも増やさない、という運用です。追加ダウンロードで増えるサイズも意識されています。逆に言うと、そこまで徹底しないとダメですよね。どこかで緩むと、データがどんどん増えていきます。

Yuto

個人で作る人が増えていますが、容量をなぜそこまで気にするのかが分かっていない人もいると思います。理由を教えてください。

畑圭輔

まず、女性をターゲットにしている時点で、女性のスマートフォンの利用法を参考にしました。基本的にスマホの容量がかなりカツカツなんです。アプリを入れっぱなしにしていたり、写真をめちゃくちゃ撮影したり。カメラの解像度はどんどん上がっているので、撮るほど圧迫していく。今の主流は128GBから256GBだと思いますが、それだとパンパンになりやすい。メインのゲームは入れているけど、他のゲームに容量は割きたくない、という声もあります。

TGSでも「あのゲームを入れていて容量がすごく逼迫しているんですけど、これってどれくらいですか」と聞かれて、「20MBです」と答えたら「20MBならいいですね」と。

畑圭輔

アプリの整理をしなくても入れられる人向けに作っている、というのがあります。それと、ゲームは可処分時間の取り合いになっていて、みんなメインで遊んでいるゲームがあるじゃないですか。なので隙間時間を取りに行く。起動は速く、容量は小さく、というコンセプトです。

パズドラやモンストのような主力のゲームのユーザーを取りに行くつもりは、そもそも戦略上ありません。片手間ならゲームしてもいいかな、という主婦層や、若年層も含めて、幅広い年齢で遊べるようにしています。

畑圭輔

そこを最初にかっちり決めたので、エンジニアもしっかり守ってくれています。途中で企画も仕様も変わっていくじゃないですか。でも、コンセプトはこれだとずっと言い続けている。その中で最大限面白い遊びをどう出すかを考えて作ってきました。

判断材料としては、容量と起動の速さを企画の最初に数字で決め、途中で変えないことです。AIで作るとアセットはいくらでも足せてしまいます。だからこそ、上限を先に決めておく意味が大きい。

大手とインディーで、AIの使い方は何が違うのか?

Yuto

5月までスクエニの中にいた立場で、言える範囲でお聞きします。大手の中でのAIの使われ方と、独立してからの使い方は、何がいちばん違いますか?

畑圭輔

使えるサービスの種類じゃないですかね。エンタープライズだと、Geminiか、だいたいCopilotが多いです。Claudeなどは、取得する情報も含めて、企業法務でNGが出やすいところも多い。新しいサービスになると、セキュリティも含めてなおさらです。

意外と選択肢は少ないんです。企業ごとにポリシーは違うと思いますが、何千人もいる会社で好きなものを使わせたら、統制が取れないですよね。

Yuto

そのスクエニが、賞金総額10億円でAIの使用もOKのゲームコンテストを開きます。12月15日から受付だそうです。古巣のこの動きはどう見ていますか?

畑圭輔

15年在籍してましたが、時勢に合わせた新しい試みだと感じますね。広く募集することで得られた作品の中から将来のスクエニの事業を背負うIPにして製品化したい。という試みの一つなんじゃないかと思います(個人の感想です)。

いくらかかったのか? いちばん高いのはAIではなかった

Yuto

お金の話をさせてください。開発規模は公開しない方針と聞いているので、桁だけで結構です。3人4ヶ月とTGSの2コマで、だいたいいくらかかりましたか? 同じことをやりたい人が、どれくらいの予算を見ればいいかを知りたいんです。

畑圭輔

人件費は人によってまちまちなので、一旦ゼロとして考えると、この規模の開発でいちばん大きいのはTGS出展の費用ですね。

Yuto

割に合いましたか?

畑圭輔

これからですね。TGSは年一の大きなイベントなので、投資という考え方で出展してます。ですが、ちゃんと回収していこうと。しかし、金額は安くはないので、個人の開発者なら二の足を踏むかもしれません。ブースの種類にもよりますが、安くても1コマ30万円〜と決まっているので。うちは2コマ押さえて、壁に垂れ幕をかけて、ガチャガチャのマシンや大きいタブレットの筐体も置きました。協賛なしで全部そろえようと思うと、余裕で3桁万円を超えます。

畑圭輔

そこにお金をかけるかは、1人や2人の開発者なら懐事情によります。でも、ツールはかなり抑えて作っています。先程の回答のとおりコストを意識して運用していますので、3人で合計月10万円ぐらいです。

Yuto

それでも十分安いですね。それぞれの経験や専門があるから、ここまで抑えられるんですか?

畑圭輔

リトライする数は少ないと思います。それと、AIにはそれぞれ得意なものがあるじゃないですか。デザインならClaudeにやらせる、とか。AIそれぞれの特性を使い分けてる感じです。

Yuto

広告モデルで赤字にならないためには、1日に遊ぶ人(DAU)は何人から必要ですか?

畑圭輔

遊ぶ頻度にもよりますが、理想としては1,000くらいは目指したいですね。

Yuto

1人あたり1日何円を見込んでいますか?

畑圭輔

ある程度試算はしてますが、ゲームデザインが広告視聴を前提に組み立てているゲームデザインなのでその答え合わせを楽しみにしている感じです。

畑圭輔

1,000人くらいは、しっかり遊んでくれるお客さんのゾーンを作りたいです。そのために月の利用者数でどれくらい要るかは出てくると思います。ただ、今のアーリーアクセスの状況を見ていると、プロモーションしても遊んでもらえる率はまだ低い。ショート動画を自動でYouTubeやInstagramに回す運用も一定は要ると思いますが、AI臭が強いショート動画を作りまくってもしょうがない。そのバランスは重視したいです。ここまでのお話でお察しの通り、AIのツール代よりイベント出展の方が桁が大きいことです。AIで開発費が下がったぶん、届ける費用の重みが増しています。

報酬はなぜトークンではなくJPYCなのか?

Yuto

そろマメは広告を入れて、報酬はJPYCにする予定ですよね。

畑圭輔

暗号資産を渡すと税務を意識しないといけないので、電子決済手段のJPYCがいいと思っています。保有していても特段問題がないものです。

Yuto

先日取材したイケハヤさんの月蝕綺譚は、課金ゼロ・広告ゼロで、ランキング上位500人に自分たちのトークンを配る設計でした。同じ「遊んだ人に還元する」でも、設計がほぼ逆です。資産性ミリオンアーサーを作った立場から見て、報酬を価格が動くトークンにしなかったいちばんの理由は何ですか?

畑圭輔

お客さんがWeb3系の、リテラシーの高い層に偏ってしまうと思ったからです。世間の温度感でいくと、SANAE TOKENの件もあって、トークンという言葉がついた瞬間に距離を置く人がいるのも事実ですし、気がついたら保有したぐらいの気持ちで獲得でき、保有し続けてもリスクが低いものがほしかった。

私の事業経験からすると、可愛い見た目のゲームで何かもらえるための世界観やデザインでいくなら、「なんかもらえるよね」くらいにしておきたい。日本円に等しいものがもらえてやったー、くらい。

畑圭輔

報酬が中心のコンテンツは、設計できますが、どうしてもギスギスしがちになります。それがゲーム内のコミュニティにも影響がでます。もっとほしい。1円とかだるいよ、100円や1,000円がもっと当たるようにしてよ、と。でもそこはメインじゃない。もらえるけど、メインはゲームを面白く遊ぶこと。

本当にポイ活寄りなんです。買い物をしたら決済でポイントが貯まっていた。Amazonのポイントやdポイントが100ポイント貯まっていたから使おうかな。まずはそのくらいの世界です。

Yuto

ランキングで報酬を出すと、複数アカウントやBotに攻略されますよね。AIで作ったゲームがAIに攻略される問題に、どこまで手を打ちますか?

畑圭輔

まずは、報酬に過度な魅力を持たせないことです。ランキングで何を配るかも慎重に決めていて、ランキングの報酬は、認められたい気持ちや自己肯定感が高まるものがいいと思っています。なので基本はゲーム内の見た目を変えるアイテムが中心です。

畑圭輔

ただし抽選券と交換できるようにしておいて、毎週抽選して、当たったらウォレットに送る。金額は1円から500円くらいの幅にして、500円は週2本くらいまで、とか。

弁護士といちばん詰めたのは「賭博該当性」

Yuto

JPYCの報酬を入れるにあたって、弁護士といちばん詰めた論点は何ですか? 景品表示法、資金決済法、アプリストアの規約などで。

畑圭輔

一番は賭博該当性です。課金を入れると、JPYCを得るための手段、たとえば抽選券を手に入れる手段に財産的な価値が付かないかなど論点が複雑になっていきます。

だから、無料で遊べて無料でもらえる、という形をなるべく守る。賭博に該当しないところを詰めました。たとえば「課金すると抽選券がたくさんもらえます」は基本やりません。100円課金して当たるのが最大10円なら、普通はしないですよね。

畑圭輔

それが100円以上、1,000円以上当たるとなると、課金するだけで価値があるかも、という感じになってくる。そこに近づくほどギャンブルっぽくなるんです。そうしたくなかった。

編集部注:景品表示法とアプリストアの審査規約について、この取材では具体的な回答は得られていません。App Storeの審査ガイドラインには「暗号資産のアプリは、SNSへの投稿などのタスクに対して通貨を提供してはならない」という項目があります。JPYCは日本の法律上は暗号資産ではなく電子決済手段ですが、この項目の対象になるかは確認できていません。

広告を切ったアーリーアクセスを褒められた

Yuto

「センスはあるけど手を動かせなかった人たちの大逆襲が始まる。そこで大事なのはパブリッシングの支援」と書かれていました。ASOGUEは、ほかの人がAIで作ったゲームもパブリッシュしていくんですか?

畑圭輔

今回のモデルもそうですが、お客さんが長く遊び続けられる運用のモデルを考えたいと思っています。面白いものを作ったから絶対売れる、という時代でもないじゃないですか。作れる人はたくさんいるけど、売るためのプロモーションやマーケティングが苦手な人もいる。そういう人たちのモデルケースになることや支援を、残りの人生でやれたらと思っています。

畑圭輔

すごく儲けたいというより、業界の話です。AIが出てきて、ある程度ものは作れるようになった。でも、完成させてパブリッシュまで持っていける人は少ないんですよね。ポン出しして一瞬のPVは取れても、そこから製品にもサービスにもならない。サービスまでやりきって出すところに、今いちばん難しさがある。そこで自分も事例を作りたいと思っています。

Yuto

漫画でいう編集者のような立ち位置ですね。

畑圭輔

そうですね。今日もXでリプライをもらったんですが、アーリーアクセスという出し方がうまいと言われて。もともと広告ありとなしの両方で遊べるように作っていたんです。広告は審査が要るので、通るまでは出せない。だから審査中は広告なしで出そうと。

結果として、アーリーアクセス版は縛りがきついぶん、ゲームとしてシンプルに面白いかどうかの判断軸になっています。

畑圭輔

普通は広告で稼ぐと言っても、よくある型に沿って広告を入れるパターンが多いと思います。でも今回は広告でしか導入しないと決めているので、広告を活かすためのゲームデザインにしています。

広告を見てジェムをもらう、というのはよくありますよね。それがなくてもゲームは成立していることが多い。うちは広告ありきでゲームデザインを作っているので、それを外すと、すごくシンプルなゲームの芯だけが残る。だからこれをアーリーアクセスにしようと決めました。この出し方が市場にどう受けるかも、一つの事例になると思っています。

広告を切った状態は、ゲームの芯だけの試験になっています。広告ありきで設計したゲームほど、広告を外した版を先に出すと、芯が面白いかどうかを確かめられます。

AIで独立する20年選手へ。真似すべきこと、すべきでないこと

Yuto

今回のように20年選手がAIを持って独立するとき、真似した方がいいこと、真似しない方がいいことはありますか?

畑圭輔

真似した方がいいのは、どんどん作って出すことです。タイムラインで見かけるデザイナーの方で、AIで50本くらいゲームを作っている方がいるんです。デザイナー出身だけどセンスがあるから、どんどん作っている。先行きが分からないから、とにかくいろんなことをやっている、と投稿されていました。承認欲求より、自分の可能性を広げるため。AIを手に入れたなら、どんどんやってみたらいいと思います。

畑圭輔

真似しちゃいけないのは、中途半端な状態で製品を出すことですね。サービスを出すと、やることがいっぱいあるんです。お客さんのサポート、製品としての品質の担保。いろんな目線で見られます。

最初にあまりにもザルなものを出すと、この人は完成させてサービスを運用するスキルがないんだな、と見られる。そうなると次の製品もその目で見られてしまう。

Yuto

信用ですね。

畑圭輔

ポン出しまではいい。でも製品までやるなら、ちゃんとやろうよ、そのための知識はつけようよ、ということです。会社に入って必要な知識を業務で得るのは大事なので、AIが来たからいきなり独立できる、とやっていると、サービスを出したときに面食らうかもしれません。

Yuto

AIで作れるけど経験の浅い人に足りないのは、そのあたりですか?

畑圭輔

実際の運用の経験も含めてですね。守れるものは守りたい。だから商標を取ったり、特許を出したりしています。小さいWebサイトの構成もそうだけど、やりながら覚えればいい、という人もいますけどね。小さいものを作って、小さいところから試していけばいいと思うんです。

畑圭輔

まず小さいものを作ってPDCAを回して、うまくいったら次はこのくらいの規模でやろう、と。

作って出す回数は増やす。ただし「製品」として出すなら、サポートと品質と権利まで面倒を見る。この線引きが、AIで作れる時代の信用の守り方です。

半年後の成功条件は「そろマメ知ってる」と言われること

Yuto

最後に。半年後に「そろマメは成功した」と言えるのは、どんな数字になったときですか? それとスクエニのコンテストには出しますか?

畑圭輔

成功したかどうかは難しいですね。さっきのDAU1,000のようなKPIはありますけど、「そろマメ知ってる」と言わせたいですよね。見たことある、知ってる、という認知が取れたら、まず成功かなと思っています。半年で売上をどうこう、という短期決戦を挑むより、ある程度は中長期の目線で考えています。そのための認知の取り方をいろいろやろうと思っています。スクエニのコンテストは、わからないです。

AI PICKS編集部の判定

AIの任せ方は、職種ごとにはっきり分かれていました。コードは設計と指示を人が持ち、実装をAIに任せる。デザインはAIのアセット生成を土台にして、ロゴやキービジュアルのように目に止まるものほど人の手を厚くする。プロデュースは判断を人が握り、議事録やタスク管理といったプロジェクト管理の手間をAIに回す。人の手だけなら最低6人は要る規模を3人で回せた理由は、AIの性能より、この割り方にあります。

数字も具体的でした。ツール代は3人で月10万円ほど。いちばんの出費はTGSの出展で、3桁万円。月蝕綺譚の「制作費150万円」とは作り方も規模も違いますが、どちらも、AIで作るお金より届けるお金の方が重くなっている点は共通しています。従量課金で青天井になる機能を避け、固定額のプランとクレジットの範囲で回す運用は、個人でもすぐ真似できます。

一方で、未確認の点も残ります。社内で作ったツールの中身は、公開できる範囲が限られるため詳しくは聞けていません。広告収益の見込みは試算があるものの、答え合わせはこれからです。JPYC報酬の法務も、賭博該当性以外の論点(景品表示法、ストアの規約)は具体的な回答がありませんでした。

読者が持ち帰れるのは、上限を先に決める作り方です。容量は20MB、起動は5秒、報酬は500円まで。AIで何でも足せる時代に、足さない線を最初に引いています。この考え方は、個人の小さな開発でもそのまま使えます。

FAQ

Q. そろえて☆マーメイドシアターはどこで遊べますか?

App StoreとGoogle Playで、アーリーアクセス版を無料で配信しています。アーリーアクセス版は広告の機能が止まっているため、プレイを続ける「アンコール上映」などのお助け機能に制限があり、難易度は高めです。

Q. JPYCはもう受け取れますか?

取材時点では、まだ実装されていません。まずパズルとして正式リリースし、その後に段階的に入れる予定です。ゲーム内のポイントを集めて抽選に参加し、当たるとJPYCを受け取れる仕組みから始めると、本人がXのスペースで話しています。

Q. LINEのミニアプリ版は出ますか?

年内が目標だと、8月のスペースで話していました。エンジンがWebベースなので、プラットフォームへの載せ替えはしやすい作りだそうです。スマホ版とLINE版でデータを共有するかは検討中です。

次に読むならこれ

同じ「AIでゲームを作る」でも、ひとりで全部回すとどうなるかは、イケハヤさんの月蝕綺譚の取材が対になります。制作費150万円の内訳と、人の手が残った4つの工程を並べて読むと、チームで作るそろマメとの違いがはっきりします。

自分でも道具から揃えるなら、AIゲーム開発のカテゴリをまとめて眺めるのが早いです。畑さんのチームのように社内エディターから作らせるなら、Codexの使い方を先に押さえておくと、指示の出し方で迷いません。議事録からToDoまでの自動化を真似するなら、Notion AIの使い方が入り口になります。

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