2026年9月21日、配信開始から2日後の「月蝕綺譚 -Luna Occulta-」について、開発者のイケハヤさんに76分話を聞きました(配信開始は9月19日)。

AIでゲームが作れる時代らしい。でも実際いくらかかって、人の手はどこに残るのか。ここが分からないと、自分に真似できるかどうかの判断がつきません。

本人の答えは「丸っと150万円」。ただしその150万円には、開発機が壊れて1日分が消えたことも、ミニゲーム4本の同時開発で2日が溶けたことも、約2,900本のボイスを自分の耳で全部聞いたことも入っています。

月蝕綺譚 -Luna Occulta- とは、イケハヤさんがAIを使って実質ひとりで開発し、2026年9月19日にiOS/Androidで配信を始めた和風ダークファンタジーの放置育成RPGです。無料、広告なし、課金機能なし。有料ガチャは今後もやらないと公約しています。開発期間は2ヶ月半。開発元はStudio VIBE(公式サイト)です。

月蝕綺譚の画面。左からホーム(忍務)、召喚後の名乗りムービー、編成画面
「月蝕綺譚」の画面。左からホーム(忍務)、召喚後の名乗りムービー(イズナ)、編成画面(提供: イケハヤさん)

対談の発言は、意味を変えない範囲で読みやすく整えています。数字と固有名詞は本人の発言のままです。

KPIは会員登録だけ。ダウンロード数を見ないのはなぜか?

Yuto

リリースから2日ですよね。おめでとうございます。いま一番気にして見ている数字は何ですか?ダウンロード数でも、翌日にどれだけ戻ってきたかでも、目安箱の件数でもいいんですが、実数でいうとどのくらいですか?

イケハヤ

KPIは明確に会員登録です。というか、ここ以外は見ないようにしているくらいですね。うちはゲームのエコシステムを作ろうとしているので、このゲーム単体の継続率はあまり気にしていません。無料ゲームなので、僕が作りたいものを作ればいい、という話で。

重要なのは、会員登録してメールを取れていることです。いま2,900人くらいで、メール登録率が9割ほど。うちのシステムからお知らせを送れる人が2,500人くらいいます。ここをどれだけ増やせるかの戦いだと思っています。

Yuto

なぜ登録者数なんですか?

イケハヤ

いまゲームを作るのはすごく簡単になりました。でも、新しいゲームができたことや、アップデートを伝えるのが、これからものすごく難しくなる。いまもそうです。だから、オプトインを取ってメールを送っていい人のリストをどれだけ持っているかが、めちゃくちゃ強い戦い方になる。僕はもともとリストマーケターなので、自分のメールのリストが3万件、Substackでも1万件くらいあります。ある意味それで飯を食えている部分もあるので。

ゲームの継続率が大事なのは、課金を集めているときなんですよね。うちは全部無料なので、今回のゲームはベータ版のような位置づけで、まずは会員登録をどれだけ伸ばせるか。ここで戦っています。

作るコストが落ちた分、伝えるコストが跳ね上がった。だから届け先の名簿を積む。AIで何か作りたい個人にとって、ここは真っ先に効く話です。

「実質ひとり」の中身。人間の手はどこに残ったのか?

Yuto

「実質ひとりで作った」という言い方をされていますよね。そこを一度分解したいんです。キャラの原案はリツ先生、主題歌もある。人間の手が入った工程を全部挙げてもらって、それぞれ人が何割、AIが何割だと、どんな感じですか?

イケハヤ

ムズいですね(笑)。まずキャラクターデザインは人間です。リツ先生が5年前からずっと原案のキャラクターを描いていて、そこは完全に人の手です。ただ、元のキャラデザからかなり変えているキャラも多い。今回は全員を美少女キャラに寄せているので、たとえばアウンはもともと男の子のキャラなんですよ。それを僕が考えつつ、テスターの皆さんの意見を聞きながら変えていく。咲耶も元のデザインと微妙に違います。キャラデザは、リツ先生とテスターと僕で、一体ずつ全部作っていった工程です。

アウンの原案(左)と月蝕綺譚の最終デザイン(右)の比較
アウンの原案(左、リツ先生が描いた CryptoNinja #029)と月蝕綺譚の最終デザイン(右)。男の子の鬼から美少女へ(提供: イケハヤさん)
イケハヤ

音楽はAIです。僕はもともとSunoで曲を作るのが好きで、何百曲というアーカイブがあったので、それをBGM化したり新規で作ったり。1日か2日で大量に出しながら「ああでもない、こうでもない」とアレンジを変えて決めています。これはそんなに手間ではないですね。

Yuto

一番大変だったのは何ですか?

イケハヤ

ボイスと、素材の検品です。いま約2,900本のボイスを収録していて、それを全部聞いています。これは人間がやるしかない。AIはまだ耳が悪くて、どのモデルでもダメでした。1本ずつ切って「これでいこう」を延々とやるのは人間の作業です。

編集部注:後段でGeminiに約2,900本の「下読み」をさせたという話が出てきます。切り分けると、誤読やアクセントのおかしさを機械が洗い出す工程はAIが担い、最終的に「この1本を採用する」と決める工程は人が担う、という分担です。ここで「どのモデルでもダメ」と言っているのは後者を指しています。

それから、テスターの皆さんにかなり助けられています。素材の破綻ですね。指が4本、指が6本、手が2つ生えている。この量の素材を自分ひとりで見るのは無理があって、僕はそんなにクリエイティブの目がいい方でもないので、本当にたくさんフィードバックをもらいました。

Yuto

一番いいモデルでもそれが起きるんですか?

イケハヤ

いまだに普通に起きます。一番いいモデルを使っても素材は破綻するし、そのたびにコストもかかるし、見落としも出る。いま皆さんに配っているバージョンでも、まだダメなやつが普通にありますね。今回は2Dのグラフィック素材が多いですから。ゲーム会社の友人には「そこはもう諦めて、極端に少ない素材のゲームを作ったらいいんじゃない」と言われたくらいで。全部チェックするのは実質不可能な素材数になってしまったので、テスターの皆さんの目がないと無理でした。

餡音の必殺技カットインの手元。左がボツの指6本、右が描き直した5本
餡音の必殺技カットインの手元。左がボツ(親指を含めて指6本)、右が本人が見つけて描き直した後(提供: イケハヤさん)
おえんの★5の一枚絵。左右とも指が4本のボツ版
おえんの★5の一枚絵のボツ版。左右の手とも指が4本で、いまは差し替え済み(提供: イケハヤさん)

整理すると、人間が残ったのは4つです。キャラクターの意思決定、音の選定、生成物の検品、そしてテスターとのやり取り。手を動かす工程は減り、良し悪しを決める工程が残りました。

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制作費は「丸っと150万円」。内訳はどうなっているのか?

Yuto

お金の話を先に聞かせてください。AIの課金が7月は月30万円、8月末には自分だけで60万円超、チーム込みで100万円と書かれていましたよね。Claudeのアカウントは何本で、CodexやAstraはいくらですか?素材、人件費、広告まで入れた本当の原価の合計も知りたいです。「Fableに言わせると1億円」はAIの言い値だと思うので、数年前に人間の開発会社から取った見積もりがあれば、それも。

イケハヤ

原価ベースでいくと、Claude Fableは7月8月で12アカウントありました。1つが3万5千円くらい。Codexも契約していたので、LLM周りだけで13アカウント、月50万円くらいですね。GoogleのGeminiも3,000円のプランを一応入れていますが、ほとんど使っていない。

9月になってAstraが出てきて、開発も落ち着いてきたので、いまはだいぶ減らせています。Astraが4、Fableが2の6アカウントで回せそうで、半分以下になる感じです。Astraはトークンの消費効率が非常によくて、Fableほど減らないんですよ。

Yuto

素材の原価はどのくらいですか?

イケハヤ

ちょうどいま画面を出していたんですが(管理画面を確認しながら)、7月は1,300ドルくらいだから20万円ほど。動画生成と画像生成、もろもろです。厳密にはゲーム以外も少し入っていますが、ほぼゲームで、1日6,000円くらいの生成費用が張り付いていました。8月はもう少し使っていて、1,600か1,700ドル。25万円、多めに言って30万円くらいですね。

イケハヤ

ピークの月で見ると、素材生成だけで50万円はいっているかもしれない。LLMで月40万円くらい。合わせて月90万円前後です。もろもろ丸っと見ると、いまのリリースのビルドは150万円くらいで作れているんじゃないでしょうか。

項目本人の発言ベースの金額
LLM(Fable 12 + Codex 1、7〜8月)月およそ50万円
LLM(Astra 4 + Fable 2、9月〜)上記の半分以下の見込み
素材生成(動画・画像)7月 約1,300ドル、8月 約1,600〜1,700ドル
ピーク月の合計(本人の概算)素材 約50万円 + LLM 約40万円(合わせて月90万円前後)
リリースビルドまでの総額約150万円

表のLLM費は、7〜8月の水準として「月およそ50万円」、ピーク月の内訳としては「約40万円」と、本人の発言の中で数字が揺れています。どちらも管理画面を見ながらの概算で、締めた数字ではありません。

「ピーク月の素材50万円」も、直前に挙がった7月・8月の実額(約1,300ドル/約1,600〜1,700ドル)より大きい数字です。本人も「いっているかもしれない」という言い方をしています。総額150万円という数字は、こうした概算を丸めた上での本人の感覚値として受け取ってください。

Yuto

比較対象はありますか?

イケハヤ

いい意味で話にならないです。放置育成を依頼したことはないですが、ミニゲームの開発を依頼したときは、いまなら簡単に作れるものでも1,000万円スタートでした。運用しない系のゲームで、見積もりを取ると普通に1,000万円くらい。AIが出る前の話なので当時はしょうがないですけど、それと比べたら本当に安くなりました。

Yuto

僕の個人プロジェクトでもfalをかなり使っているんですが、それと比べても素材のAPIコストがかなり抑えられている印象です。

イケハヤ

うちは、いまはさらに安くなっていて。動画生成の新しい高速モデルが出て激減しました。7月8月は本当に高かったのが、たぶん5分の1くらい。画像生成も「GPT Image 2.5」が優秀で、いままでミディアム品質で出していたものをロー品質で出せるようになった。特に動画生成が高かったので、そこは10分の1くらいになっているんじゃないか。なんでこんなに安いんだ、というレベルで変わってびっくりしています。

つまり、月々の固定費がほぼ全部で、人件費の欄がありません。しかも素材の相場は数ヶ月で桁が動いています。半年前の数字で試算すると、たぶん大きく外します。

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Fable・Codex・Astra・Gemini。どう使い分けているのか?

Yuto

ツールの使い分けを聞かせてください。コード、絵、音、企画の壁打ち、デバッグ。それぞれの担当はどうなっていますか?

イケハヤ

いまはCodexが基本になっています。もともとFableでゴリゴリ作っていましたが、Claude CodeからCodexを呼び出して開発させる形が増えてきました。Fableはすぐ5時間制限が来るんですよ。ただ、Fableの方がコミュニケーション能力は高いので、こっちも使いたい。いまはタスクによって投げ分けながら調整中です。

Geminiはほとんど使っていなかったんですが、3.8 Flashになって耳がいいんですよね。妙に耳がいい。TTS(テキストの音声読み上げ)の誤読の確認は、Gemini 3.8 Flashがすごく優秀です。約2,900本のボイスの下読みは全部Geminiにやらせて、アクセントの修正まで出してくれる。動画の分析も強いので、プレイ動画を渡してオンボーディングの改善案を出させることもあります。早いし安い。

Yuto

Codexに夜通し8時間デバッグさせている話がありましたよね。あれはどういう仕組みですか?

イケハヤ

めちゃくちゃ雑に投げているだけです。Codexは実装力が異常に高いので、朝起きたらまだやっている、ということが実際にちょいちょいありました。投げ方が特殊なわけではなくて、ゴールを設定して「徹底的に点検して」という雑なプロンプトです。たぶんトークンを無駄に燃やしながらやっています。枠が余っているときに、雑に投げてずっとやらせる。ちゃんとコミュニケーションを取りながら開発するときはFable。ざっくりそういう使い分けです。

Yuto

結局、人間がやらないといけないデバッグは何が残りますか?

イケハヤ

バグというより、プレイフィールですね。オンボーディングでボタンが出る瞬間がちょっと遅いとか。バグはないけど、やっていて面白くない、気持ち悪い。そこは実際にテスターさんと一緒にプレイしながらです。

判断材料としてはこうです。雑に投げて長時間走らせるのはCodex、詰めながら作るのはFable、音と動画の検品はGemini。一番いいモデルを1つ選ぶ発想は捨てて、役割で割る。

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時間を溶かした落とし穴は何だったのか?

Yuto

「AIでゲームを作るのは落とし穴しかない」と書かれていました。一番時間を溶かした落とし穴を3つ教えてください。それと、いまから最初から作るならどう避けますか?

イケハヤ

まずひとつ、すごくくだらない話から。このゲームはミニゲームがたくさん入っているんですが、Claude Codeを立ち上げてミニゲームを4つ同時並行で作っていたんです。そうすると後でめちゃくちゃ衝突して、マージするときにぶっ壊れる。それを2日間くらいやってしまった。

同時並行で作って衝突したミニゲーム。左が百火繚乱、右が射的
同時並行で作って衝突したミニゲーム。左が「百火繚乱」、右が射的(提供: イケハヤさん)
イケハヤ

人間なら物理的にできないから普通はやらない。でもAIだと、ひとつのゲームの中で競合しそうな機能を同時に開発できてしまう。いまは同時にやるとしても、確実に干渉しない領域だけです。ストーリー部分の画像生成と、ミニゲームのロジック調整を同時に回す、とか。かなり基本的なところですが、そこで詰まりました。

Yuto

2つ目は何ですか?

イケハヤ

素材のパイプラインです。うちはフルボイスでリップシンク(口の動きとセリフを合わせる処理)を入れていて、召喚ムービーでキャラが「わが名は咲耶」と名乗るんですね。ここのリップシンクを作るのが本当に大変でした。パイプラインがなかなかできなくて、クレジットも時間もかなり溶かして、最後はFableが「よくわからないけど、すごいちょっとした技術を発明してくれて」ようやくセリフと映像が合うものが作れた。効果音も含めて、最適なやり方がなかなか見つからず、いろんなモデルを試しながら時間がかかりました。

3つ目はストア申請です。思い通りにいかない要素がここに詰まっています。Googleのアカウントもなかなか作れなかったし、Steamはまだ書類の不備で申請が通っていない。iOSは、AIでやってもやはり一度はリジェクトを食らいます。月蝕綺譚も本番のビルドが一回リジェクトされました。ヘルスキット(iPhoneの歩数を読む機能)を使っているので、その規約周りで引っかかって。

Yuto

3つと言いながら、まだありそうですね。

イケハヤ

あります(笑)。パソコンが壊れました。データのバックアップは取ってあったので大きな問題はなかったんですが、1日分くらい取れていないものが残っていて、開発が巻き戻った部分がある。いまはR2にresticで3時間ごとにバックアップして、Googleドライブにもクローンを取って、SSDを挿してTime Machineでも取っています。しかも、そのバックアップが動いているかの監視まで入れました。できていると思ったらできていなかった、ということがあったので。ひとりで開発していると、素材レベルで自分の端末の中にしかないものがどうしても出てきてしまう。ここはもっと早くやりたかったですね。

旧Macがクラッシュした日にデータを救出コピーしていた画面
旧Macがクラッシュした2026年9月13日、データを救出コピーしていた画面(提供: イケハヤさん)
クラッシュ後に組んだバックアップの3段構えの図。Time Machine、Cloudflare R2、Google Drive と見張り
クラッシュ後に組んだバックアップの3段構え。Time Machine、Cloudflare R2、Google Drive に加えて、止まったら通知する見張りまで入れた(提供: イケハヤさん)
Yuto

MacBookが壊れるって、何が起きたんですか?友人にも「MacBookがそんなに壊れないだろう」と言われて。

イケハヤ

FableとAstraに原因を追及させた結果、はっきりはしないんですが、48GBのメモリが常に逼迫していて、CPUもずっとフル稼働だった。どうやらOSの起動ファイルが壊れたのではないか、という説が有力です。起動時にゲージが少し動いて止まる。セーフモードでもダメで、結局クリーンインストールでした。メモリは大事に、ということですね。いま128GBの端末が来るので、さすがにもっと安定して開発できると思います。

溶けた時間のほとんどは、AIの賢さと関係のない場所にありました。同時並行の設計、バックアップ、審査。個人開発なら、ここは予算が10分の1でも同じ形で起きます。

AIチャット「千夜」を1日1回25文字にした理由は原価ではない

Yuto

作品内のAIチャット「千夜」は、1日1回、入力25文字までですよね。そこまで絞ったのは、原価の話ですか、安全の話ですか?

イケハヤ

もう安全ですね。どう考えても悪いことをする人がいるじゃないですか。あれをやらせないためには、文字数を減らすのがたぶん一番簡単。それだけです。

千夜のAIチャット。入力、AIがセリフを考えている画面、咲耶の返事の3コマ
千夜のAIチャット。咲耶の問いに「焦げてないほうが好きかなー」と入力すると、AIがセリフを考えて咲耶が答える(提供: イケハヤさん)
Yuto

キャラの人格はどう作っていて、13歳以上の子が話す前提でどんな防御を入れていますか?

イケハヤ

キャラ設定はAIと一緒に全キャラのペルソナを作っています。ペルソナファイルは1,000字以内くらいで、ベースの性格だけ僕がディレクションして、あとはAIが勝手に作ってくれる。30キャラいるので、ぶっちゃけ全部は読んでいません。でも体感、問題ない。会話していると「お前そんなに好きだったんだ」と、僕も知らない好物が入っていたりします。いい意味でAI任せです。

咲耶の設定ファイル persona.js の一部
咲耶の設定ファイル(persona.js)の一部。好物、口癖、「あるじどの」への第一印象までAIと一緒に作った(提供: イケハヤさん)
イケハヤ

防御はかなりガチガチです。まず英数字を入力できないようにしています。プロンプトインジェクション(指示文に偽の命令を混ぜる攻撃)をされたくないので。典型的なエロ系のワードも全部弾く。いまは「Jev」が使えそうなので、その手前で機械的な振り分けをさらに高速にできそうだと思っています。いくらやろうとしても難しい、というくらいきつくしています。

Yuto

1ユーザーあたりのAPIのコストはどのくらいですか?ストア審査で引っかかった点はありましたか?

イケハヤ

テスターのデータを見ると、1人あたりの会話は平均1回なんですよ。1回チャットするコストが0.2円くらいなので、めちゃくちゃ安い。全ユーザーが毎日1回話しても、1人あたり0.6円。ほぼ気にならない値段です。審査は意外と平気でした。AIチャット周りでは、テスター期間も本リリースも、iOSもAndroidも何も引っかかっていません。

入力欄を削るのが最短の安全策。1チャット0.2円なので、原価が理由ではありません。個人開発でチャット機能を載せる人が、そのまま真似できる設計です。AIキャラクターチャットを作る側にも参考になります。

課金ゼロにした本当の理由は、リスクではなくゲーム性だった

Yuto

今回、課金要素をなくしたのはリスクヘッジの考えもありましたか?決済は一番トラブルが起きやすい部分なので、そこを切り離したのは賢い判断だと感じました。

イケハヤ

それもある前提ではあるんですが、むしろゲーム性の方が先です。僕はもともと放置育成が好きで、何十万、下手したら100万円くらい課金していろんなゲームを遊んできた。でも、どれも途中で課金圧が強すぎて嫌になる。新しいキャラが出るたびに自分が育てたキャラが相対的に弱くなって、ノーマルやSレアのキャラがどんどん人権を失っていく。僕はIPホルダー側なので、キャラクターを平等に愛せるようにしたい。放置育成というジャンルは、課金を入れない方が最終的にバランスがいい、というプレイヤーとしての直感が先にありました。

それに、この規模で完全無料の美少女系の放置育成は、たぶん市場に存在しない。課金圧にうんざりしている放置育成ゲーマーは反応してくれやすいはず。マーケティングのニュアンスもあります。

Yuto

ソーシャル要素で競わせて課金させる設計も、あえて外していますよね?

イケハヤ

ランキングの上位に課金勢がずらっと並んで、「ここに行くにはあと100万円課金しないと」と見せつけられる姿は、IPとしていいんだろうか、と思う部分がありました。やり込みコンテンツは用意していますが、Pay to Win(お金を払えば勝てる状態)にはしない。ちゃんとデッキを組んでプレイスキルを高めた人が上に行く。お金で買えないので、ガチのゲーマーの人はこっちの方がいいと思ってくれるんじゃないかと信じてやっています。

広告費1,000万円をトークンの買い戻しに回す。その整理は?

Yuto

P2E(遊んで稼ぐ仕組み)の原資が「広告費1,000万円でトークンを買い戻す」で、価格が上がるとホルダーが喜ぶ、とも書かれていましたよね。これはゲームの報酬なのか、トークンの需給を動かしているのか、どちらですか?資金決済法や景品表示法の整理は、誰がどう確認しましたか?

イケハヤ

今回FiNANCiEを使っているのが大きな肝です。FiNANCiEのトークンは暗号資産ではなく、あくまでデジタルアイテムという整理がFiNANCiE側でできている。うちがトークンを配っても暗号資産には当たらない、というのは分かっています。それに、無料ゲームのプレイ報酬としてトークンを渡すことは、実はだいぶ前から別のプロジェクトでやっていて、リーガルチェックもそこで済んでいます。iOSの規約上も問題ないことは取れているので、今回のやり方は問題ない、という話です。

原資は、もともと1,000万円くらいスマホ広告を打とうと思って会社の予算があったんですが、広告を出しても全然人が集まらない。それなら、FiNANCiEには6万人か7万人くらいユーザーがいるので、そちらで目立ってトークンの価値を高めて、新しい人に気づいてもらう方がコスパがいい。しばらくは1,000万円の予算でトークンを買っていきます。1年間くらいはゆるゆると回せる気がしています。

Yutoの質問のうち「報酬か需給操作か」には直接の回答がなく、景品表示法についての言及もありませんでした。誰が法務を確認したかも、「他のプロジェクトで済んでいる」までです。ここは未確認として書き残します。

再現性は「ない」。それでも伝えたいのは「ひとりで作れる」

Yuto

イケハヤさんにはXで49万人のフォロワー、テスター800人、クリプトニンジャのIP、広告予算1,000万円がありますよね。これを全部取り外した無名のひとりが、同じ工程で同じものを作ったとして、何が残って、何が消えると思いますか?

イケハヤ

面白い質問ですね。結論はたぶん、めちゃくちゃ難しい。マーケティングは本当にとにかく命です。面白いゲームを作ったらバズる、という世界ではもちろんない。うちは培ってきたものがあるからこの戦い方ができていて、それでもこの程度なので、ゲーム業界のマーケティングがいかに難しいかを、いま打ちひしがれています。

Yuto

再現性という意味では、どうですか?

イケハヤ

ないでしょ。これはうちだから真似できないと思います、いろんな意味で。このスピードでゲーム開発できる人もそうそういないし、IPとしても、リツ先生が自分の描いたイラスト素材をAIに読み込ませてOKと言ってくれる人はあまりいない。もともとNFTから始まっているコミュニティなので、Web3の話をしてもみんな普通についてくる。それから僕がマーケターなので、会員サイトの仕組みから全体の設計までやれる。自己資金もある。再現性は完全にないですね。

Yuto

明日、最初のゲームを公開したい人が広告に予算を当てたい場合は、どうすればいいですか?

イケハヤ

難しいと思います。僕なら企画レベルから考える。VTuberやYouTuberに配信してもらって配信映えするゲームを作る。企画の段階から配信映えを考えて、その予算でコミュニケーションを取れる配信者にプレイをお願いする。当たるかは分からないけど、僕ならそこから考えます。

Yuto

初心者がAIの有料プランを1つだけ契約するなら、どれですか?

イケハヤ

いまだと、ChatGPTのAstraでいいんじゃないですか。

Yuto

Claude Fableではないんですね?

イケハヤ

いまなら、という感じですね。でもAstraはいま新規で契約できないですよね。

Yuto

止まっちゃってますね。

イケハヤ

そこが難しいところです。

ここははっきりしています。工程は真似できる。名簿とIPと資金は真似できない。「AI課金だけで誰でも作れる」と読むと、確実に外します。

半年後の成功条件は、他の人が作ったゲームが10本並ぶこと

Yuto

半年後に「月蝕綺譚は成功した」と言えるとしたら、どの数字が何になっていればいいですか?DAU、継続率、トークンの配布額、課金を入れたかどうか、何でも構いません。

イケハヤ

変な話に聞こえるかもしれないですが、クリプトニンジャはもともと二次創作で盛り上げていくIPとして立ち上げているんです。いまゲームのポータルに僕が作った7種類のゲームがあるんですが、ここにどれだけ他のクリエイターのゲームが出てくるかを重視したい。僕ひとりでゲームを作る必然性はそもそもないと思っているので。年末に、他のクリエイターが作るゲームが10個くらい追加されて、ランキングに反映されるようになっていれば、やりたいことに近づいている感じがします。

今回のAIでのゲーム開発の革命性は、ひとりで爆速で面白いものが作れることだと思っています。2人、3人で作る話ではない方がいい。僕も開発者を巻き込もうかと悩みながらやっていましたが、月蝕綺譚に関しては、僕ひとりで作った方が早いしいいものができる、という結論が見えてしまった。これからはソロ開発者がめちゃくちゃ面白いゲームを爆速で作る、僕より面白いものを作る人も絶対に出てくる。そういう人たちがここに乗ってくる状態を、いかに作れるかです。

Yuto

伝えたいことは何ですか?

イケハヤ

ひとりでできる、ということです。僕がやや特殊なプレイヤーだという前提はありますが、それでもこれをひとりで作れる時代はもう来ている。マーケティング、企画、運営、ユーザーサポート、テスターを集めることまで、従来なら全部いろんな人と一緒にやらないといけなかった。それがひとりでできると、ビジネスモデルを変えられるし、自分の作りたいゲームに集中できる。まだコストとエネルギーはかかるけど、それでもできています。月蝕綺譚はそのデモンストレーションです。こんなのがひとりで作れるなら私にも作れそうだ、と思ってくれる人がたくさん出るといいなと思って作っています。

反AIの空気、運営との距離、本体の発熱

Yuto

ゲーム業界には反AIの空気がある、と書かれていましたが、実際に業界の人から言われたことはありますか?

イケハヤ

Xで絡まれることはあります。ただ、ゲーム業界と名乗っているだけで、たぶん業界の人ではないんだろうな、と思うことが多い。どちらかというとイラストレーター寄りの人や、VTuberファンの方が多いです。僕の知っている範囲で、名前のあるゲーム業界の人で反AIの人は誰もいません。むしろこの2、3ヶ月で、いわゆる反AI的に絡まれること自体がだいぶ減っています。もっと来てくれたらダウンロードが伸びるのに、というくらいで。

Yuto

ゲーム業界にいる人からすると、開発中止になるタイトルは星の数ほどあるので、ひとりでローンチまでこぎつけたことは勇気を与えるだけだと思います。それと、本体がめちゃくちゃ熱くなりますよね。

イケハヤ

開発中止したゲームは確かにめちゃくちゃ見ますね。本体の熱は、次のビルドで直ります。裏の処理でメモリをかなり食っていたんですが、今日なんとか半減して、40%オフくらいになりました。テスターの皆さんからも「熱い、熱い」と言われていたので、最速で直しています。

Yuto

問題点を認識して直していく過程が、プロデューサーレターのように見えるといいですね。

イケハヤ

目安箱がその役割です。僕は本当に全部見ていて、AIも使いながら全部返信しています。ゲームって運営との距離が基本すごく遠いじゃないですか。要望が通るわけがない前提で、Xで文句を言う文化がまだある。うちは全然そんなことなくて、目安箱でもDMでもDiscordでも、書いてくれたらすぐ直しますよ、というくらいの感じでやっています。ひとりでやっている本当のメリットだと思うので、ユーザーと一緒にゲームを直していく文化にしたい。そういう距離感の運営をするゲーム会社は、これから増えていくと思います。

AI PICKS編集部の判定

数字を出し惜しみしませんでした。管理画面を開いてその場で素材費を数え、Fableが12アカウントだったことも、開発機が壊れて1日分が消えたことも、ミニゲーム4本の衝突で2日溶けたことも、自分から話しています。制作費150万円という数字は、成功譚ではなく明細として受け取れます。

一方で、再現性は本人が真っ先に否定しました。IP、49万フォロワー、800人のテスター、1,000万円の予算。どれも一朝一夕には用意できません。「AI課金だけで誰でも作れる」という読み方は、確実に外します。

金額より、読者が持ち帰れるのは工程の割り方です。干渉しない仕事だけを並行させる。バックアップは開発と同じ優先度で先に組む。生成物の検品には人の目を残す。長時間の自走と対話での開発でモデルを分ける。この4つは、予算が10分の1でも成立します。

トークン配布の法務については、「他のプロジェクトでリーガルチェック済み」という回答までで、確認した専門家は取れていません。景品表示法についての言及もありませんでした。ここは未確認のまま書き残します。

FAQ

Q. 月蝕綺譚はどこで遊べますか?

App StoreとGoogle Playで配信中です。2026年9月19日配信開始、無料で広告も課金機能もありません。Steam版は書類の不備で申請がまだ通っていないと、収録時点で本人が話していました。

Q. 開発に使ったパソコンはどんな構成ですか?

48GBメモリのMacBookで開発していましたが、メモリ逼迫とCPUのフル稼働が続いた末に起動しなくなりました。その後、開発の途中で128GBメモリの新しいMacに切り替えています。AIエージェントを複数同時に走らせる前提なら、メモリは多い方が安全側です。

Q. ゲームはどの技術で作られていますか?

開発にはFlutter(iOSとAndroidのアプリを1つのコードで作れる開発フレームワーク)をかなり使っているそうです。Flutter特有の不具合をかなり踏んだので、その出方と回避方法をAIエージェント用のスキルとしてまとめていて、今後立ち上げるコミュニティで配る構想を話していました。

次に読むならこれ

AIでゲームを作る側に回るなら、AIゲーム開発のカテゴリをまとめて眺めるのが早いです。今回はひとりで出し切った人の明細なので、その前段にある道具の選び方や工程の組み方は、カテゴリ内の記事で補えます。

月蝕綺譚は2Dの一枚絵とボイスが中心でした。素材づくりから試すなら、2Dのキャラや背景はgetimg.aiのような画像生成、3Dで作るならMeshyのようなテキストや画像から3Dモデルを起こすツールが入り口になります。BGMはイケハヤさんと同じくSunoで足ります。どれも無料枠から触れるので、まず1体・1曲作ってみて、検品の手間を体感するのが先です。

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