Google AI Studioで作った試作がうまく動いた。そのまま社内システムに載せていいのか分からず止まっている。この記事はそこから始めます。

結論はシンプルです。試すのはAI Studio、載せるのはVertex AI。境界線は「止まったら誰かが困るか」の一点。

Vertex AIとは、Google CloudのAIを開発・調整・本番運用まで1か所で扱える統合基盤です。料金は完全な従量課金で、サーバーの調達と保守はGoogle側が持ちます。製品単体の基本情報はVertex AIのツールページにもまとめています。

この記事のポイント

  • Vertex AIは、Google CloudのAIを開発から本番運用まで1か所で回せる土台。サーバーの用意はGoogleが持ちます
  • Model Gardenに200を超えるモデルが並び、Gemini系だけでなくClaudeやLlamaも同じ窓口から呼べます
  • 料金は完全な従量課金。Gemini 2.5 Proは20万トークンまで入力100万トークンあたり$1.25、出力$10が目安
  • Agent Engine(エージェントの本番稼働)は2026年1月28日から課金が始まっています。無料の実験枠と勘違いすると請求で驚きます
  • Cloud Next 2026で製品名が「Gemini Enterprise Agent Platform」に変わりました。中身は地続きです
  • 個人の検証ならAI Studioで十分。SLA(稼働の保証)とIAM(権限の細かい制御)が要る瞬間だけVertex AIへ

Vertex AIとは何か

Vertex AIとは何か

Vertex AIとは、Google CloudのAIを開発・調整・本番運用まで一気通貫で扱える統合基盤です。サーバーの調達や保守はGoogle側が持ちます。

やることを分解すると4つ。データを渡す、モデルを選ぶ、自社向けに調整する、本番に出して見張る。この4つが別々のサービスに散らばらず、同じコンソールの中で完結します。

昔のGoogle Cloudは、学習はここ、デプロイはあっち、監視はさらに別、という継ぎはぎでした。継ぎ目のたびに設定と権限を作り直す。あの手間を1本にまとめたのがVertex AIです。

名前の話をひとつ。GoogleはCloud Next 2026で、この製品を「Gemini Enterprise Agent Platform」へ改称しました。旧ページは新しい製品ページへ転送されます。ただ検索でも社内会話でも通じるのは依然「Vertex AI」なので、この記事ではそちらで通します。

使う人は大きく2種類に分かれます。

  • 社内文書を読ませて答えさせるアプリを作りたい人(コードは書くが機械学習は専門外)
  • モデルを自分で学習させたいデータサイエンティスト・MLエンジニア

前者が圧倒的多数です。そして前者にとって最初の関門は、機能の多さではなく「AI Studioとどっちを使うか」。そこから片付けます。


Google AI StudioとVertex AI、どちらを使うべき?

Google AI StudioとVertex AIの使い分け

判断基準は1つで足ります。そのAIが止まったとき、社外の誰かか、業務が止まるか。止まるならVertex AI、止まらないならAI Studio。

同じGeminiを触れるのに入口が2つあるのは、想定している責任範囲が違うからです。AI Studioはブラウザを開けばすぐ試せる代わりに、稼働の保証や細かい権限管理は持ちません。モデルとしてのGemini自体の機能はGeminiのページで確認できます。

比較すると輪郭がはっきりします。

観点Google AI StudioVertex AI
想定用途試作・個人の検証本番運用・チーム開発
SLA(稼働の保証)実質なしあり
権限管理簡易(アカウント単位)IAMで役割ごとに制御
ネットワーク制御限定的VPC等で閉じられる
ログ・監視最小限運用前提で揃う
課金無料枠中心Google Cloudの請求に統合

つまり、AI Studioは「壊れても自分が困るだけ」の範囲で最速。Vertex AIは「壊れると請求書と顧客が飛んでくる」範囲を守るための道具です。

ここで多い失敗が1つ。AI Studioで作り込みすぎてから移行を考えるパターンです。プロンプト(AIへの指示文)自体はそのまま持ち込めますが、権限設計・ログ・監視は作り直しになります。

社内の誰かに配る予定が少しでもあるなら、検証の途中でVertex AI側のプロジェクトを1つ作っておく。これだけで後の作り直しがかなり減ります。

判断ができたところで、Vertex AIを選ぶ最大の理由に入ります。モデルの品ぞろえです。


Model Gardenの200超モデル、どう選べばいい?

Model Gardenでのモデル選び

Model GardenはVertex AIの中核で、200を超えるモデルを同じ場所から比較・調整・デプロイできます。ここが他社基盤との一番の差です。

並んでいるのはGoogle製だけではありません。AnthropicのClaude、MetaのLlamaといった他社モデルも同じ窓口から呼べます。用途に合わせてモデルを乗り換えても、認証も課金も監視も作り直さずに済む。地味ですが、これが効きます。各モデル単体の性格はClaudeLlamaのページで先に押さえておくと、比較がぶれません。

実務での選び方は、精度で選ぶより「1リクエストあたりいくらか」から入ると早いです。

  • 大量処理・要約・分類 → 軽量モデル(Flash系)
  • 複雑な推論・長文の読解 → 上位モデル(Pro系)
  • 他社モデルで検証済みの資産がある → Model Garden経由でそのまま移植

4つ目を足したくなりますが、実務ではこの3分岐で大半が決まります。

Metaのモデルがなぜここに並ぶのか、Llama系の立ち位置が曖昧なままだと選択がぶれます。Meta AIの全体像をまとめた記事を先に眺めておくと、後半の料金比較が読みやすくなります。他社APIの単価感を先に掴みたいならClaude APIの料金と使い方をまとめた記事も併せてどうぞ。

モデルが揃うと、次の関心は「で、エージェントは作れるのか」に移ります。


Agent BuilderとAgent Engineで何ができる?

Agent BuilderとAgent Engine

作れます。Vertex AIには、エージェントを組み立てるAgent Builderと、本番稼働させて監視するAgent Engineが揃っています。

エージェントとは、指示を受けて自分で手順を決め、社内システムやツールに触れて作業を終わらせるAIのこと。チャットの返答だけで終わらず、実際に処理を実行する点が違います。用語と料金相場から押さえたいならAIエージェントの選び方をまとめた記事、既製品を見比べたいならAIエージェントのカテゴリ一覧が早いです。

Agent Engineが担当するのは、動かし続ける側です。ランタイム(実行環境)、Sessions(会話の文脈保持)、Memory Bank(記憶の蓄積)、Code Execution(コードの実行)。この4つがそれぞれ課金対象で、2026年1月28日から請求が始まっています。

ここまでの整理: Vertex AIは「モデルを選ぶ場所(Model Garden)」「エージェントを作る場所(Agent Builder)」「動かし続ける場所(Agent Engine)」の3層でできています。料金もこの3層それぞれに乗ります。

権限設計だけは最初に決めてください。エージェントは賢く見えて、渡した権限の範囲でなら平気で余計なことをします。読み取り専用から始めて、ログを残し、書き込み権限は必要になった時点で1つずつ足す。この順番を崩すと後で戻せません。

エージェント運用にはコストの読みにくさがついて回ります。料金の話に移ります。


Vertex AIの料金はいくらかかる?

Vertex AIの料金は完全な従量課金です。月額の基本料はなく、呼んだトークン数と使ったノード時間の分だけ請求されます。

生成AIモデルの課金単位は「トークン」。AIが扱う文字のかたまりのことで、日本語ならおおむね1文字が1トークン強に相当します。入力と出力で単価が別々にかかる点が最初のつまずきどころ。

主要なGeminiモデルの単価を整理します。100万トークンあたりの金額です。

モデル入力(20万トークン以下)出力(20万トークン以下)入力(20万トークン超)出力(20万トークン超)
Gemini 2.5 Pro$1.25$10$2.50$15
Gemini 2.5 Flash$0.30$2.50$0.30$2.50
Gemini 2.5 Flash-LiteFlashより低単価Flashより低単価同左同左

長い文脈を投げると単価そのものが上がる。この二段構えを知らずに設計すると、想定の倍近い請求になります。

Vertex AIを経由しない場合の単価と無料枠はGemini APIの料金と始め方をまとめた記事で比較できます。モデル世代ごとの違いはGemini 2.5シリーズの解説記事が早いです。

生成AI以外の機能も課金軸が違います。

機能課金の単位目安
AutoML(画像)トレーニングのノード時間約$1.375 / ノード時間
カスタムトレーニングマシン構成(CPU/GPU)× 時間構成による
Vertex AI Pipelinesパイプライン実行ごと+使用リソース約$0.03 / 実行
Vertex AI Searchクエリ数+インデックス容量構成による
Agent Engineランタイム+Sessions+Memory Bank+Code Execution2026年1月28日から課金

つまり、生成AIはトークン、学習はノード時間、パイプラインは実行回数。3つの物差しが同じ請求書に混ざります。

もうひとつ、時限付きの価格に注意。Gemini 3.7 Flashと3.6 Flashは2026年12月31日まで導入価格として入力$0.75/出力$3.75(100万トークンあたり)ですが、2027年1月1日から入力$1.5/出力$7.5の通常価格へ切り替わります。

年明けに単価が倍。試算を年内の数字で作ったまま予算を通すと、来期にそのまま跳ね返ります。ここは今のうちにメモしておく価値があります。

料金の形が見えたら、次は膨らませない工夫です。


コストを膨らませないための実務ポイント

従量課金で事故る原因は、単価の高さではなく「思ったより呼ばれていた」の一点に集中します。呼ぶ回数と1回あたりの長さ、この2つだけ見張れば足ります。

効くのは次の4つです。

  • モデルの使い分け: 要約・分類はFlash系、推論が要る処理だけPro系に回す
  • 入力を短くする: 社内文書を丸ごと渡さず、検索で絞ってから渡す
  • 20万トークンの壁を越えない: 越えた瞬間に入力単価が2倍になる設計を避ける
  • 予算アラート: Google Cloud側で上限と通知を先に設定しておく

このうち即効性があるのは1つ目。処理の大半は軽量モデルで足ります。

社内文書を検索で絞ってから渡す手法は、一般にRAG(社内資料を読ませて答えさせる仕組み)と呼ばれます。精度対策として語られがちですが、実際にはコスト対策としての効果のほうが分かりやすい。渡す文字数が桁で減ります。仕組みそのものはRAGの解説記事にまとめてあります。

もうひとつ見落とされがちなのが、開発中の呼び出しです。テストのたびに本番同等のモデルを叩いていると、リリース前に無視できない額が積み上がります。開発環境は安いモデルに固定するルールを最初に決めてください。

削減額を数字で示して稟議を通したい場合は、AI導入のROIシミュレーション記事の試算の型がそのまま使えます。

コストの見通しが立ったところで、実際の始め方に進みます。


使い始めるまでの手順

Vertex AIの利用開始は、Google Cloudプロジェクトを作り、Vertex AI APIを有効にし、権限を割り当てる。この3ステップです。

順を追うとこうなります。

  1. Google Cloudでプロジェクトを新規作成し、請求先アカウントを紐づける
  2. Vertex AI APIを有効化する(コンソールの検索窓から辿れます)
  3. IAMで、触る人にVertex AI User等の役割を割り当てる
  4. コンソールのVertex AI Studioでプロンプトを試し、動いたらAPI(他のソフトからAIを呼び出す窓口)経由に切り替える

3番を飛ばして「権限がない」で詰まるのが定番です。自分が作ったプロジェクトでも、役割の割り当ては別の作業。

最初の壁は別のところにあります。管理画面が英語中心で、機能名も英語のまま。日本語で解説を探しても画面と用語が一致せず、そこで手が止まる人が多いです。

対策は単純で、最初の1回だけ画面のスクリーンショットを撮って社内手順書にしてしまうこと。2人目以降の立ち上がりが変わります。

生成AIそのものが初めてなら、モデルの選び方から入ると遠回りに見えて速いです。Geminiの使い方をまとめた記事で無料の範囲を掴んでから戻ってくると、Vertex AI側で何を有料でやるべきかの線が引けます。


どんな会社に向いて、どんな会社に向かない?

Vertex AIが向くのは、すでにGoogle Cloudを使っている会社と、AIを社内システムに組み込む前提がある会社です。逆に、個人利用と単発の検証には過剰。

向いているケースを挙げます。

  • すでにGoogle CloudやBigQueryにデータがある(連携の手間がほぼゼロ)
  • 顧客向けサービスにAIを組み込む(SLAと権限管理が要件になる)
  • 複数モデルを比較しながら運用したい(Model Gardenが効く)
  • 画像・動画の解析を業務に使う(この領域のGoogleの強さは評価が高い)

一方、次に当てはまるなら急ぐ必要はありません。

  • 社内数人がチャットで使うだけ(AI Studioや一般向けプランで足りる)
  • クラウド運用を任せられる人が社内にいない(権限とコストの管理が回りません)
  • 検証フェーズで、何を作るかまだ決まっていない

3つ目が一番多いパターンです。作るものが決まる前に基盤から入ると、費用だけ先に走ります。

社内にAIを入れる順番そのものを整理したい場合は、生成AIの社内導入手順をまとめた記事のほうが先です。基盤選びはその後で構いません。


編集部の評価

公開情報とリサーチを突き合わせた率直な評価を書きます。結論から言えば、本番運用を前提にした企業なら一択。個人と検証段階には正直イマイチです。

強いと感じる点は3つ。

1つ目はModel Gardenの品ぞろえ。200超のモデルを、他社製も含めて同じ認証・同じ課金・同じ監視で扱える設計は圧倒的です。モデルの入れ替わりが速い今の状況では、この乗り換えやすさがそのままリスク対策になります。

2つ目は画像・動画の解析。第三者レビューでも、映像の中の対象検出まわりを高く評価する声が目立ちます。人が目視で確認していた作業の置き換え先として、ここは重宝します。

3つ目は課金の透明さ。トークン単価が公開され、20万トークンでの単価変更まで明示されている。試算が事前にできるのは、稟議を通す側からするとかなり大きい。

弱いところも率直に。管理画面と用語が英語中心で、日本語だけで完結しない点は最初の壁です。加えて、機能が3層(Model Garden/Agent Builder/Agent Engine)に分かれているぶん、料金の全体像が初見では掴みにくい。

そしてAgent Engineの2026年1月28日課金開始。実験のつもりで置きっぱなしにしたエージェントが、静かに請求を積む構造になりました。ここは導入前に必ず社内で共有してください。

総じて、Google Cloud上にデータがある会社にとっては破格の環境。そうでない会社にとっては、まず用途を1つ決めてからでも遅くありません。


よくある質問(FAQ)

Q. Vertex AIとGeminiは何が違いますか?

Geminiはモデルそのものの名前、Vertex AIはそのモデルを企業向けに動かす基盤の名前です。同じGeminiでも、一般向けアプリから使うのと、Vertex AI経由で自社システムに組み込むのとでは、権限管理・ログ・稼働保証の有無が変わります。

Q. 無料で試せますか?

Google Cloudには新規向けの無料クレジットがあり、その範囲でVertex AIも試せます。ただし本格的に使い始めると従量課金に移ります。単純に無料で試したいだけならGoogle AI Studioのほうが手軽です。

Q. 名前が変わったと聞きましたが、今までの設定はどうなりますか?

Cloud Next 2026で「Gemini Enterprise Agent Platform」へ改称されましたが、機能は引き継がれ、旧ページは新しい製品ページへ転送されます。呼び名の問題であって、作ったものが使えなくなるわけではありません。

Q. 月にいくらくらいかかりますか?

使った分だけなので固定額は出せません。目安として、Gemini 2.5 Proに20万トークン以下の入力を100万トークン分投げると$1.25、出力100万トークンで$10。軽量なFlash系なら入力$0.30・出力$2.50まで下がります。まず1機能に絞って1か月動かし、実測から積み上げるのが確実です。

Q. エンジニアがいなくても使えますか?

コンソールでプロンプトを試すだけなら可能です。ただし本番運用となると、権限設計・コスト管理・障害時の対応が発生します。クラウドを触れる人が社内にいないなら、まずは既製の生成AIサービスから入るほうが現実的です。


Vertex AIの検討は、基盤選びより先に「どのモデルで何をやるか」が決まっているかで難易度が変わります。まだそこが固まっていないなら、Gemini 2.5シリーズのモデル比較を読んでから戻ってくると、Model Gardenの前で迷う時間がかなり短くなります。